斑鳩文化協議会と和の精神

斑鳩文化協議会 初代理事長 亀井 龍彦

 平成5年(1993)12月、聖徳太子ゆかりの「法隆寺地域の仏教建造物群」と「姫路城」が、ユネスコの世界文化遺産に日本から初めて登録されました。世界最古の木造建造物・法隆学問寺と共に太子の『憲法十七条』”和を以て貴しと為す”「和の精神」も地球人類の世界平和願望として登録されたのだと私は思っています。飛鳥京の大和朝廷の用明天皇(第31代)がご病気になられ病床で「三宝(仏教)に帰依し寺を造り薬師像を祀りたい」と誓願されましたのがご遺言となり、嫡男の厩戸皇太子(聖徳太子)が推古15年(607)に斑鳩の里に建立されたのが斑鳩寺(創建法隆寺)ですが、天智天皇9年(670)に全焼したと『日本書紀』に記載されており、現在の法隆寺境内に若草伽藍跡として保存されています。そこから北西に約200m離れた場所に和同年間(708~715・奈良白鳳時代)に完成されたのが現在の法隆寺西院伽藍です。この西院伽藍と夢殿のある東院伽藍を含む法隆寺伽藍の建造物のうちの国宝18棟と重要文化財30棟と、北東約1Km離れた法起寺の国宝三重塔と合計49棟の建造物が世界文化遺産に登録されたのです。法隆寺が世界文化遺産の檜舞台に登場しましたので、斑鳩町民ボランティア有志で平成6年12月に斑鳩文化協議会を創立し、「和」の発信基地を概念とした文化活動を展開することにしました。最初は具体的な行動計画が組めず暗中模索が続きましたが、21世紀スタートの平成13年は聖徳太子の斑鳩宮ご造営(601)から1,400年の年に当たりますので、新企画として「いかるが和々塾(にこにこじゅく)」を開塾し、朝日新聞の朝日カルチャーセンターのご協力を得て「聖徳太子学」を連続開講することにしました。講師には法隆寺の管長さん長老さん・大学の教授・作家の先生方を迎え、太子の生涯および歴史上から「和の精神」を学び受講者が自分の和の精神を呼び起こし、それを周囲の人々に伝播し広域に発信していこうというのが本願です。
「和」について私の所感を述べさせていただきます。まず字源と意義ですが、この「龢(わ)」は古代中国の農耕儀礼に関わる文字でこの和の古い文字とされています。偏の龠(やく)は中国の三孔竹管の縦笛で音律の調和を表し、旁の禾(のぎ)は稲穂で穀物を表します。自然の恵みの穀物を感謝して神に供え、村人達が笛を吹いて神楽を奉納し歓ぶ風情の文字です。この「和」の字源は口偏に禾旁の咊(わ)ですが、いつしか偏と旁が入れ替わりました。この禾偏は古代中国で戦場の軍門に立つ標識で口旁は和議書を入れるサイという器で講和が本義ですが、穀物(食)口に足りればなご(和)む意義もあると思います。龢と和の字源は少々異なりますが『憲法十七条』の写本に両方の文字があり、相通ずる意義が多く早くから同意語として用いられ現在は和が代表しています。和の大意は「あらゆるものが仲よく交わって一つの理にかなう和合」ですが、使い方によって多くの意義があります。次に、和の理念ですが、大きく二つあります。其の一つは「地球上の宇宙間(天と地の間)は万物の生滅を司る和の世界であり、その中で生きる人類は和より大切なものは無いのです」。日本仏教の開祖とされる聖徳太子の晩年のお言葉に「世間虚仮唯仏是真(せけんこけ、ゆいぶつぜしん)」があります。意味は現実世間は仮の虚しいものばかりであり、唯一、仏陀の教えが真実であるというのです。大乗仏教の根本真理は「空(くう)」と聴きます。原語サンスクリット語では「虚ろ」とか「膨れた餅の中のような状態」をいうらしいのですが、宇宙間の諸々の出来事や物体は全て原因(因)と条件(縁)の和・いわゆる因縁によって成り立っており、それらは永遠不変の固定的実体は無く「むなしいもの」であるというのです。人為的因縁や大自然的因縁(神仏的因縁)によって新たな現象を生じますが、それがやがてまた因縁によって壊れ消滅してゆくのが現実世間の運命です。宇宙間の万物は休むことなく次から次へと生じることと空しく消滅することを繰り返し司る大自然界のバランスの世界・和の世界です。この地球上に人類の歴史がはじまり、男女が結婚(和)して精子と卵子が結合(和)して肉体と心が合一(和)した子どもが生れました。人体は60兆もの細胞が結合(和)して成り立ち、心身を構成する諸器官が互いに調整(和)し合って生きていますが、自分一人だけでは生きてゆけません。多くの職業の人々と共存共生(和)し相互扶助(和)して生活しています。命尽きれば遺骸は大地の土か大海の水に融合(和)して消滅します。これが天命であり人間の生涯の全てが「和すること」に終始一貫しているのです。国際社会は和の外交が必須であることも含め、人類が生きていくために和より大切なものは無いのです。和の理念其の二は「和というのは日本文化の特質であり、日本精神の原点です」。古代の中国や朝鮮は我が国を倭国と呼びました。厩戸皇太子は我が国初の憲法に和の精神を基にした『憲法十七条』を制定して「和を貴ぶ国」を目指し、「日出ずる国」を自称し隋(したが)う倭国のイメージを一新して、和(あまな)う和国となったのです。和というのは、まさに日本文化の古来からの特質であり、太子以来1,400年連綿と引き継がれてきた和の精神は日本精神の原点です。江戸中期の国学者・本居宣長は、日本民族固有の大いなる和の心・大和心を「敷島の大和心を人問わば、朝日に匂う山桜花」とうたいました。この清々しく優しい大和心に大義名分の立つ正義感を秘めれば、勇猛で潔いのを特性とする武士道の大和魂という強い日本精神となるのです。いざという時、助け合い支えあって一丸となり頑張れる和の精神の強い絆で、この度の東日本未曾有の被害の復旧・復興は必ず成し遂げられると思います。
 僭越ながら私は30年余、国際ロータリーの末席に名を連ねさせていただいています。ご承知の方も多いと思いますが、国際ロータリーは奉仕の理想を掲げる世界的な奉仕団体です。会員のロータリアン一人ひとりが奉仕の理念の心がけとして「四つのテスト」を座右の銘にしています。1. 真実かどうか 2. みんなに公平か 3. 好意と友情を深めるか 4. みんなのためになるかどうか 言行はこれに照らしてから行うべしということです。私はこの四つのテストが『憲法十七条』の和の精神に相通じるものであるということを感受しまして、生まれたのがわたしの座右の銘「和の精神 五則」です。 1. 感謝の心    自分が生かされていることに関係あるすべてに対する感謝の心。 2. 思いやる心   自分の事と思い相手に気配り気使う心。動植物にも同様の心を。 3. 支え合う心   自発的に助け合い支え合う心。相互扶助の心 4. 和合の心    「和を以て貴しと為す」の心。人類に和より大切なものはないの心 5. 真実の対話    奉仕の態度は真実の心の対話でなければならないの心。 NPO法人斑鳩文化協議会は、「和の精神」が皆さまの人生を楽しくすることと、広域に波及して社会がより明るくなることを念じ続けています。

 

平成23年(2011)9月講座 「私の聖徳太子像‐法隆寺村に生まれて80年‐」追記

 

NPO法人 斑鳩文化協議会 理事会長 亀井 龍彦  

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